母は、2007年10月ぐらいから、風邪気味だと言っていた。
だから、通っていたスイミングもお腹を冷やすからお休みしているという。
最近の風邪は治りにくいし、実際私もなかなか治らずにいた。
だから、特別心配はしていなかった。
それに、11月の頭には父や姉家族と一緒に、ディズニー・シーに遊びに来たから。
ディズニー・シーに母が遊びに来てから数日後、仕事の帰りに電話した。
「来週、胃カメラの予約をとったんだ。検査してくる。」と教えてくれた。
知り合いに医師の奥さんがいて、胃カメラ検査したら?という話になったらしい。
私も大したことないと思っていて、「検査して何もないこと、確認してきなよ。」と軽く答えていた。
それから数日後、めずらしく父から携帯に留守電が入っていた。
留守電の内容は聞いていなかったけれど、
ちょうど仕事もひど段落したところだったから、実家に久々に帰省しようと父に電話をかけた。
「お母さんが入院した。命にかかわるかも知れない。」
父からのびっくりな知らせだった。
前日に母に電話したときは、熱があると調子が悪そうだったけれど、
それは予兆で、結局、腹膜炎で母自ら救急外来に駆け込んだらしい。
その時の検査で、胃がんが見つかったという。
父は病院から呼び出しを受け、
「まだ詳しい検査結果はでていないけれど、経験上、胃がんで、
何もしなければ春を迎えることができないだろう。」
と医師から説明されたらしい。
私は次の日、始発の新幹線にのって、母の入院先へ向かった。
父の電話で困惑し、前の晩はほとんど眠れなかった。
確か母は、10年程前に良性ポリープが見つかった時から、毎年胃カメラ検査していたはずで、
そんな命にかかわるようなガンが突然みつかるものだろうか。
命にかかわるというのは、どういうことなのだろうか。
そんなこと考えながら、そして何か怖くて、落ち着かなかった。
病院に行ってみると、腹膜炎はほぼ治まって、ベットで横になっている母がいた。
まだ、抗生物質の点滴をしていた。
母はまだ病気の告知を受けていない。
私は素知らぬ顔で母に会いに行った。
「久々に休みが取れて帰ってきてみれば、お母さん、入院してるし。」
母は、腹膜炎がいかに苦しかったかを私に話してくれた。
そして、胃カメラ検査をしている映像をみたら、
胃に赤いぐじゅぐじゅした部分があったことも教えてくれた。
母の弟も、同じ胃がんで既に他界している。
母は、その最期を看取っている。
「お母さんのは、おじさん(母の弟)の映像と違ったから、大丈夫だ!」
「先生も、『胃カメラの映像だと、大きくみえるんですよ』って言っていた!」
と必至に私に訴えた。
母は、胃カメラの映像を見て、ヤバいと察したようだったけれど、
それが胃がんであるとは認めたくなかったのだと思う。
帰省して次の日、医師から告知してもらうことになった。
医師からも、
「本人に戦う意思があるのならば、告知した方が良い。
そしてセカンド・オピニオンを地元のガンセンターに聞きに行くと、
どの道、ズバッと言われてしまうから。」
と話されていたし、
母の弟が同じ病気ならば、到底、感づかずにいるなんて無理だと思った。
平日の昼に告知すると、
仕事があるはずの家族が全員病院にそろうのは、
明かに「大変な病気です」と言っているようなものだからと、
医師に頼んで、夕方過ぎに告知していただくことをお願いした。
夕方、仕事終わりに家族が母の病室に訪ねてきた。
そして軽くしゃべった後、医師がふらりとやってきた。
ナースステーションの奥の部屋に移動して、皆で医師の説明を聞いた。
「(母)さんは、胃がんです。」
その一言を言う医師の手が震え、緊張しているような気がした。
そして、
「詳しい検査の結果は出ていないが、おそらくこれから外来で抗癌剤治療になるでしょう。
TS1とタキソテールという抗がん剤で、個人差はありますが、副作用もあまりありません。
これから大変でしょうけれど、今は体力をつけて、手術にそなえましょう。」
と続けた。
母は終始、借りてきた猫のように、「はい。」「はい。」と必至に返事をしていた。
しっかり返事はしていたけれど、
結局、母はその日の説明をあまり覚えていなかった。
医師は、トイレに行く母を捕まえたりと、少しづつ検査の結果と現状を伝えてくれた。
本当は、抗癌剤治療で手術ができるようになるのはごくまれなケースで、
母の場合は、外来の抗癌剤治療で延命治療するような状態だったけれど、
医師は、母が希望を持てるように、そしてショックを和らげるように配慮してれた。
とっても良い医師にめぐり逢えたと思う。
告知から数日後に、ガンセンターにセカンド・オピニオンを聞きに行った。
医師から、
「ズバっといわれるから、できるだけ家族も一緒に行ってあげてください」
とアドバイスを受けていた。
家族全員で、1時間かけて出かけた。
待合室で少し待った後、
母と姉で、セカンド・オピニオンを聞きに、診察室へ行った。
「がんは胃の外側まで広がっているから、手術はできない。
場所も悪いから、放射線治療もできない。
TS1とタキソテールの抗がん剤併用療法で、奏効率は約50%。
腹水がでていると、効きにくい。」
やはり、ズバッと言われたらしい。
診察室から出てきた母は、ふらふら歩いていた。
兄が手を差し伸べたけれど、それでもおぼつかない足取りだった。
セカンド・オピニオンを聞き、治療方針が固まった。
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