2009年1月24日土曜日

【私から見た母】抗癌剤治療開始まで

母は、2007年10月ぐらいから、風邪気味だと言っていた。
だから、通っていたスイミングもお腹を冷やすからお休みしているという。
最近の風邪は治りにくいし、実際私もなかなか治らずにいた。
だから、特別心配はしていなかった。
それに、11月の頭には父や姉家族と一緒に、ディズニー・シーに遊びに来たから。

ディズニー・シーに母が遊びに来てから数日後、仕事の帰りに電話した。
「来週、胃カメラの予約をとったんだ。検査してくる。」と教えてくれた。
知り合いに医師の奥さんがいて、胃カメラ検査したら?という話になったらしい。
私も大したことないと思っていて、「検査して何もないこと、確認してきなよ。」と軽く答えていた。

それから数日後、めずらしく父から携帯に留守電が入っていた。
留守電の内容は聞いていなかったけれど、
ちょうど仕事もひど段落したところだったから、実家に久々に帰省しようと父に電話をかけた。
「お母さんが入院した。命にかかわるかも知れない。」
父からのびっくりな知らせだった。
前日に母に電話したときは、熱があると調子が悪そうだったけれど、
それは予兆で、結局、腹膜炎で母自ら救急外来に駆け込んだらしい。
その時の検査で、胃がんが見つかったという。
父は病院から呼び出しを受け、
「まだ詳しい検査結果はでていないけれど、経験上、胃がんで、
何もしなければ春を迎えることができないだろう。」
と医師から説明されたらしい。

私は次の日、始発の新幹線にのって、母の入院先へ向かった。
父の電話で困惑し、前の晩はほとんど眠れなかった。
確か母は、10年程前に良性ポリープが見つかった時から、毎年胃カメラ検査していたはずで、
そんな命にかかわるようなガンが突然みつかるものだろうか。
命にかかわるというのは、どういうことなのだろうか。
そんなこと考えながら、そして何か怖くて、落ち着かなかった。

病院に行ってみると、腹膜炎はほぼ治まって、ベットで横になっている母がいた。
まだ、抗生物質の点滴をしていた。
母はまだ病気の告知を受けていない。
私は素知らぬ顔で母に会いに行った。
「久々に休みが取れて帰ってきてみれば、お母さん、入院してるし。」

母は、腹膜炎がいかに苦しかったかを私に話してくれた。
そして、胃カメラ検査をしている映像をみたら、
胃に赤いぐじゅぐじゅした部分があったことも教えてくれた。
母の弟も、同じ胃がんで既に他界している。
母は、その最期を看取っている。
「お母さんのは、おじさん(母の弟)の映像と違ったから、大丈夫だ!」
「先生も、『胃カメラの映像だと、大きくみえるんですよ』って言っていた!」
と必至に私に訴えた。
母は、胃カメラの映像を見て、ヤバいと察したようだったけれど、
それが胃がんであるとは認めたくなかったのだと思う。

帰省して次の日、医師から告知してもらうことになった。
医師からも、
「本人に戦う意思があるのならば、告知した方が良い。
そしてセカンド・オピニオンを地元のガンセンターに聞きに行くと、
どの道、ズバッと言われてしまうから。」
と話されていたし、
母の弟が同じ病気ならば、到底、感づかずにいるなんて無理だと思った。
平日の昼に告知すると、
仕事があるはずの家族が全員病院にそろうのは、
明かに「大変な病気です」と言っているようなものだからと、
医師に頼んで、夕方過ぎに告知していただくことをお願いした。

夕方、仕事終わりに家族が母の病室に訪ねてきた。
そして軽くしゃべった後、医師がふらりとやってきた。
ナースステーションの奥の部屋に移動して、皆で医師の説明を聞いた。
「(母)さんは、胃がんです。」
その一言を言う医師の手が震え、緊張しているような気がした。
そして、
「詳しい検査の結果は出ていないが、おそらくこれから外来で抗癌剤治療になるでしょう。
TS1とタキソテールという抗がん剤で、個人差はありますが、副作用もあまりありません。
これから大変でしょうけれど、今は体力をつけて、手術にそなえましょう。」
と続けた。
母は終始、借りてきた猫のように、「はい。」「はい。」と必至に返事をしていた。
しっかり返事はしていたけれど、
結局、母はその日の説明をあまり覚えていなかった。
医師は、トイレに行く母を捕まえたりと、少しづつ検査の結果と現状を伝えてくれた。
本当は、抗癌剤治療で手術ができるようになるのはごくまれなケースで、
母の場合は、外来の抗癌剤治療で延命治療するような状態だったけれど、
医師は、母が希望を持てるように、そしてショックを和らげるように配慮してれた。
とっても良い医師にめぐり逢えたと思う。

告知から数日後に、ガンセンターにセカンド・オピニオンを聞きに行った。
医師から、
「ズバっといわれるから、できるだけ家族も一緒に行ってあげてください」
とアドバイスを受けていた。
家族全員で、1時間かけて出かけた。
待合室で少し待った後、
母と姉で、セカンド・オピニオンを聞きに、診察室へ行った。
「がんは胃の外側まで広がっているから、手術はできない。
場所も悪いから、放射線治療もできない。
TS1とタキソテールの抗がん剤併用療法で、奏効率は約50%。
腹水がでていると、効きにくい。」
やはり、ズバッと言われたらしい。
診察室から出てきた母は、ふらふら歩いていた。
兄が手を差し伸べたけれど、それでもおぼつかない足取りだった。

セカンド・オピニオンを聞き、治療方針が固まった。

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